東北総通局「電波利用促進セミナー」参加報告2025
802.11ah推進協議会
広報・普及TG 林 果保利
2025年1月30日に仙台市内にて「電波利用推進東北フォーラム セミナー in 仙台」が開催されました。
本セミナーはM2M/IoTの利用において主要な技術であるSub-GHz帯のLPWAや5G 等の電波利用の促進を図ることを目的とするセミナーで、2022年9月に制度化された802.11ahによるIoT導入を推進してもらうため、11ahの特徴と導入事例を紹介する講演と会員企業各社の製品展示を行ってきましたので報告します。
「電波利用推進東北フォーラム セミナー in 仙台」
M2M/IoT時代必須のSub-GHz帯無線通信規格の全貌 -
開催日時:2025年1月30日 13:15~17:00
開催場所:ハーネル仙台 2F 松島(仙台市青葉区本町2丁目12−7)
■ 開会挨拶
総務省東北総合通信局長 藤田 和重 様
本セミナー及び展示会の開催に先だって、藤田様より開会の挨拶がありました。
電波は従来の人同士の通信だけでなく、モノ同士の通信(M2M/IoT)にも活用が広がっており、この用途では省電力で長距離通信が可能なLPWA技術が重要であると考えている。
10年ほど前から重要が高まる背景の中で近年、LPWAの標準規格は増加し、それに基づく製品やソリューションも充実していることを実感している。
モバイル通信や5G、ローカル5G等の利用が進む中、M2M/IoT時代におけるLPWAを取り巻く最新動向や活用事例を紹介することで、LPWAを活用した無線システムの導入を促進し、東北地域における課題解決や持続的な発展に貢献することを期待していると述べられました。
■ 「電波政策の最新動向」
講演者:総務省総合通信基盤局 電波部 移動通信課長 小川 裕之 様
講演内容:
電波をデジタル社会の経済基盤としてビジネスの拡大に繋げていく電波政策として取りまとめたWX(ワイヤレストランスフォーメーション)推進戦略と今後の取り組みをまとめたWX推進戦略アクションプランについてお話をされました。
WX推進戦略では、ワイヤレスサービスがビジネスや生活を変革していく未来に向けて、5Gのカバーエリア拡大や幅広い周波数需要に対応するための約70GHz幅の周波数確保といった具体的数値目標の設定がなされ、NTN(Non-Terrestrial Network)をはじめとするあらゆる空間での電波利用拡大への対応、周波数の柔軟な利用のための移行・再編・共用、インフラとしての安定利用のための環境整備など、具体的な政策の柱が示され、アクションプランに落とし込まれているとの話しがありました。あわせて、デジタルインフラの動向として、5G通信環境の整備おける2023年度末の整備目標と実績が示され、携帯電話やローカル5G向けに周波数特性に応じた帯域割当状況や、5G利用拡大に向けた中継基地局等の制度整備についても解説されました。
様々な無線システムがあらゆる場所で活用される中、5G・ローカル5Gに限らず、M2M/IoT通信に向けたSub-GHz帯無線システムを中心とする様々な取り組みを進めていきたいと述べられました。
■ 「802.11ah の概要と社会実装に向けた実証ユースケースの紹介 ~法令改正後11ahの市場実装に向けたPoCの優良事例を紹介~」
講演者:802.11ah推進協議会広報普及タスクグループ 林 果保利
講演内容:
他LPWA技術の中では最新のIoT向け無線LAN規格であるIEEE802.11ah/Wi-Fi HaLowの導入を加速するため、その特徴とユースケースを紹介しました。
規格の特徴
Wi-Fi HaLowは、従来のWi-FiやLPWAと比較して、以下の点で優れています。
・ 長距離伝送: 1kmを超える伝搬性能
・ 高速通信: 既存LPWAより高速な通信性能
・ 低消費電力: 乾電池による長期間駆動
・ 高いセキュリティ: AESによる強固な暗号化機能
・ 低コスト: アンライセンスバンド
導入事例
Wi-Fi HaLowの活用事例として、工場・物流DX、地域のスマート化、労働環境のスマート化、日常生活を豊かにする4つの視点でユースケースを紹介。
・ 工場内における見回り効率化や工場内CO2排出量の見える化
定量的効果:AP台数を2.4GHz Wi-Fiの1/5 に削減可能であることを確認
・ スマート街路灯の制御とカメラや音声による防犯監視への応用
・ 商業ビル/公共施設の地下エリアなどのモバイル不感地帯での駐車場空き状況や重電設備管理
・ ゴルフ・スキー場における使用状況の遠隔監視や設備監視によるサービス強化
・ 公共交通機関での運行データ収集や設備点検の効率化
・ 他LPWAと比較し精細な画像による河川氾濫箇所の遠隔監視
定量的効果:他LPWAの約12倍の画素数の映像送信、20倍の送信間隔での画像転送が可能であることを確認。
これらユースケースの動態デモ展示とHaLow対応機器の静態展示を行う施設「νLab(ニューラボ)」もWi-Fi HaLowの導入を支援する施設として紹介した。
*AHPC講演資料のダウンロードは
こちら
■ 「Wi-SUN 最新動向 広域をカバーする世界標準のメッシュ無線通信と活用事例」
講演者:Wi-SUNアライアンス アンバサダー 柏木 良夫 様
講演内容:
Wi-SUNアライアンスのもとで相互運用性を確保するための強固な認証プログラムと世界標準のプロトコルであるWi-SUN導入事例を紹介されました。
規格の特徴
Wi-SUN (Wireless Smart Utility Network) は、スマートメーターやIoTデバイス間の通信に利用されている無線通信規格。
FAN (Field Area Network)
・ 数千万台のデバイスに対応し、主にスマートメーター間の通信に利用
・ メッシュネットワーク (24段ホップ) で広範囲をカバー
・ 周波数ホッピングで耐干渉性に優れる
・ 世界標準プロトコル採用
HAN (Home Area Network)
・ 住宅内の家電を接続し、機器の見える化(HEMS)を実現
・ スマートメーターと水道・ガスメーターを接続する IoT Route が追加
Wi-SUN FAN 1.1
・ 20年の長期運用を想定した低消費電力プロトコル
・ OFDMによる高速通信 (最大2.4Mbps)を実現
・ 同一システム内で伝送レートを柔軟に変更可能
Wi-SUN認証とその利点
・ Wi-SUNアライアンスが IEEE802.15.4g を基準に相互運用可能な製品を認証
・ マルチベンダーによるエコシステムでも公共システム等での継続運用可能
・ 相互運用性確保による市場投入までの時間短縮
・ 2014年から認証制度開始、現在までに300個程度のデバイスが認証取得済
導入事例
・ 530万台のスマートメーターを利用した停電管理で年間250万ドルのコスト削減
・ スマートメーターによる故障箇所特定でハリケーン後の電力復旧を効率化
・ ロンドン市内の街灯LED化に合わせてWi-SUN FAN導入、パーキング空き状況管理や故障検知に応用
・制度化から13年の歴史の中でWi-SUN対応デバイスは1億台以上出荷
■ 「DX で社会課題解決に挑む - 進む、LPWA ZETAの社会実装 –」
講演者:ZETAアライアンス 代表理事 諸井 眞太郎 様
講演内容:
IoTでの社会課題の解決を目標に、ZETAの概要とそれを活用したソリューションと社会実装の具体的事例を紹介されました。
規格の特徴
・ ZETAは、以下の特徴を持つツリー型構造の無線通信規格です。
・ 長距離伝送: 中継器を利用することで、見通しの良い環境で10km、中継器3つで40kmの範囲をカバー可能 (マルチホップ)。
・ 耐干渉性: 2kHzの狭帯域利用により電波干渉に強い。
・ 低消費電力: 双方向通信 (アップリンク/ダウンリンク) が可能。
TOPPAN社によるZETA活用ソリューション
・ 河川水位監視システム (スイミール): ZETA通信によるセンシング情報とLTEカメラ等の情報を統合し、自治体の水害対策を支援。
・ 工場環境データ可視化 (e-Platch): 中継器を活用し工場内の広範囲な環境データを収集し、スマートファクトリー化を促進。
・ タグ物流ソリューション(ZETag): モノの所在や位置情報を特定する長距離伝送と低消費電力なアクティブタグで物流IoTを加速。
導入事例
・ 岡山県浅口市
スマートシティ実現に向け、河川・ため池水位計測、獣害対策、熱中症監視等にZETAを活用。
・ TOPPAN社自社工場
300台以上のセンサーで温湿度等を監視し、環境点検や設備点検にかかる人的作業時間とコストを削減。
・ 農林水産省実施
農産物輸送時のパレットにZETAタグを搭載し、着荷/出荷管理や付属のGPSでトレーサビリティ管理にも成功。
■ 「ソニーのLPWA “ELTRES”の技術概要と応用事例のご紹介」
講演者:ソニーセミコンダクターソリューションズ株式会社
システムソリューション事業部 シニアプロジェクトマネジャー 北園 真一 様
講演内容:
超長距離通信を実現するELTRESの技術やネットワーク形態などの概要と特徴的な導入事例を紹介されました。
規格の特徴
超長距離通信:低帯域(128bit)の一方向通信だが、受信した複数波形のタイミングを合わせて合成する感度高度化、強固なデータ補正、時間とともに周波数が変化するChirp変調等による干渉除去などの技術により、現在使用されている通信の中で最長の通信距離を実現。
高精度な通信:GNSSの時間情報を使った同期通信により、高精度な通信を実現。伝送エラーが発⽣した場合、送信成功まで10分間隔で最⼤24時間再送実施。
手軽な端末開発:ELTRES対応端末を手軽に開発可能なパッケージモジュールを提供し、製品開発を支援。
ネットワーク:ソニーネットワークコミュニケーションズ社が全国に親機を設置しているため、利用自身で親機設置する手間なく、手軽にELTRESを利用可能。
ローカル通信対応:可搬性の高い小型受信機の開発により、ローカル通信にも対応。
導入事例
・ 街のインフラ監視:河川水位、積雪量などの監視。
・ 航空障害灯の遠隔監視
・ 街路灯電力モニター:街路灯の電力消費量の監視。
・ 物流における配送効率化
・ 車両管理:稼働時間や移動経路などの車両管理。
・ 登山者の捜索救助:GPS情報の利用による登山届がない状況で入山した登山者の捜索及び救助。
・ 土砂崩れの危険察知:土中の水分濃度を検知し、土砂崩れの危険を察知。
・ ELTRES搭載ライフジャケット:被災者が着用するライフジャケットのGPS情報を取得し捜索を容易に。
■協力企業・団体によるLPWA各規格の展示会
併設されたLPWA展示会では、当団体に加え、ソニーのELTRES、Wi-SUNアライアンス、ZETAアライアンスの4つのブースが出展しました。
当団体ブースでは、フルノシステムズ社、ビーマップ社、D-LINK社、メガチップス社、の製品を展示するとともに、802.11ahによる映像配信のデモを実施しました。多くの来場者がセミナーの休憩時間や終了後に展示会場を訪れ、当団体のブースにも多数のお客様にご来場いただきました。
ブースに訪れた方の中には、本セミナーを通じて初めて802.11ahを知った方も多く、対応機器やデモを実際にご覧になるのは初めての様子でした。特に、通信速度や飛距離、映像の品質についてのご質問を多くいただき、関心の高さが伺えました。また、他のLPWA通信方式を展示していた団体の方々からも、センサーデータに加えて静止画や動画のニーズがあるとの声が寄せられ、Wi-Fi HaLowを併用したいという具体的な要望もいただきました。
本展示会を通じて、802.11ahの技術やその活用可能性について、多くの方々に理解を深めていただく貴重な機会となりました。今後も、さらなる普及促進に向けて活動を続けてまいります。
*AHPC講演資料のダウンロードはこちら